ZIPANG-4 TOKIO 2020  全国の姥神像行脚(その15)青森県の下北半島の果て 霊山・恐山の「姥神」・・・【寄稿文】廣谷知行

はじめに 記事をお届けするに当たり、昨夏、関東・東北地域を直撃した、強烈な台風19号と、続く21号の記録的な豪雨で、千葉や栃木、福島など5県の34河川で浸水被害や土砂災害により亡くなられた方々を始め、多岐に亘って被災された皆様へ心よりお見舞い申し上げます。また、このたび我が国の世界遺産である沖縄のシンボル首里城の正殿等主要部分の全焼被害が発生。やりきれぬ国民的ショックも癒えぬ中、重ねて2019年12月4日、アフガニスタン東部で長年医療と共に当地に用水路を完成させた国民的英雄、中村哲医師の暗殺事件が続きました。余りにも大き過ぎる一連の悲報に暮れた昨今です。今私達は世界平和の為に何が出来るか…?中村氏が遺した後姿から一人ひとりが何かを学び取り、その実践こそが目指した真の世界樹に繋がるものと思います。謹んで哀悼の意を捧げつつ。合掌


姥神(うばがみ)とは

姥神の定義の説明の前にまず、奪衣婆の説明をさせていただきたい。 奪衣婆とは、死後にあの世へ渡るための三途の川の岸辺にいて、亡者の衣を脱がせる存在である。なぜ脱がせるのかと言うと、その衣を衣領樹(えりょうじゅ)と呼ばれる木の枝にかけるためである。そうすると生前の罪の大きい者は枝が大きく下がり、小さい者はほとんど動かない。亡者の罪はその衣に重さとなって染み込んでいることになる。衣領樹は罪を量るはかりであり、それを審査するのが奪衣婆である。

恐山 霊場

恐山 霊場

大師堂


青森県の恐山

血の池地獄

青森県の下北半島の果て、むつ市にイタコで有名な霊山「恐山」があります。
貞観4(862)年に慈覚大師が開山したとされ、訪れた方はわかると思いますが、恐山菩提寺には地蔵尊像や血の池地獄などもあり、その荒涼とした幻想的な風景は正にあの世を連想させてくれます。

恐山には噴火によるカルデラ湖の宇曽利山湖があり、その水は三途の川、正津川を通って津軽海峡に流れ出ているのですが、この川には次のような伝承があります。

ある年の大雨で三途川の水かさが増し、奪衣婆の像を安置した姥堂が、下流の正津川へ流されたので、人々は運び帰ったが、何度戻してもひとりでに流れていくので、像に伺いを立てると、正津川が気に入ったというので、堂の場所を移した。

(国際日本文化研究センター、怪異・妖怪伝承データベースより。)

三途の川に架かる橋

三途の川…こんな風景を見るとつい、ゾクッ~としてきます・・・

恐山菩提寺の入り口のところ、宇曽利山湖から正津川に流れる出る箇所を三途の川とし、橋が架かり、その手前には奪衣婆と懸衣翁の立派な像も安置されています。伝承によるとこのあたりに姥堂があったことになります。

風車のまわる宇曽利山湖の風景

ちなみに、三途の川を葬頭河(そうずか)とも呼ぶことがあります。青森県の正津川の名前の由来はこの葬頭河だと考えられます。


正津川河口近くの優婆寺

優婆寺門

優婆寺本堂

優婆尊の祀られている祭壇

現在、正津川沿いに姥堂は無く、伝承の奪衣婆像を祀っているとされているのが、正津川の河口付近にある東光山優婆寺です。恐山を開山したとされる慈覚大師作の木像の姥神像を優婆尊として祀っています。また、このお寺は恐山門戸とし、恐山の入り口としての位置づけをしています。

優婆尊のお札

優婆尊像は普段は公開しておらず、参拝客が来た時に開帳しているようです。特に子宝、安産にご利益があるとされ、毎年6、7月頃に団体で信者が訪れるとのこと。お札があるので、その姿を見ることができます。


信仰形態は立山系か

この世とあの世の境界である三途の川にいるのが奪衣婆です。この優婆寺の位置づけも恐山というあの世への入り口、つまりこの世との境界としてあること、また、先の伝承のなかでも奪衣婆の像だったことと合わせ、奪衣婆を優婆尊として祀っていると考えることができます。

しかしながら、安産や子宝へのご利益、普段は秘仏としていること、ただの堂ではなく、お寺の本尊として祀っていることなど、その信仰形態は新潟出湯温泉や立山芦峅寺によく似ています。もともと奪衣婆像としてあったものかもしれませんが、この優婆尊についても、立山の影響を色濃く受けた姥神信仰と言えるかと思います。


続く・・・


寄稿文
廣谷知行(ひろたに ともゆき)
姥神信仰研究家



協力(敬称略)

公益社団法人 青森県観光連盟 〒030-0803 青森市安方1-1-40 TEL:017-722-5080

鎹八咫烏



※画像並びに図表等は著作権の問題から、ダウンロード等は必ず許可を必要と致します。



 早速、読者からご覧いただきご意見が届きましたのでご紹介いたします!


『読者の声』

(その14)をご覧いただき、ご質問を頂いた方からこんなメールが届いております。

ご丁寧にご返事をありがとうございました。早速、教えていただいた空也上人像で有名な京都の六波羅蜜寺の奪衣婆像を拝見してきました。大変に立派な奪衣婆(姥神)様でした。

今回の恐山の姥神は、三途の川や刺々しい火山の岩がゴツゴツと積み重なっており、これまで以上に鬼気迫るものがありますね~。以前から一度「ねぶた祭り」に行きたいと思っておりましたので、その折に訪ねてみたいですね~3泊は必要ですか?

ついでに近くに良い温泉がありましたらZIPANGでご紹介ください。チャッカリとすみませ~ん‼  


『読者の声』

恐山の奪衣婆の像は三途の川と正津川の場所に建っていて、この世との境界にいるような気がしてきます。恐山の風景と姥神様の信仰の歴史があるのだと思います。


 『読者の声』

いつも気になりますが恐山の天気はいつも曇りなのでしょうかね。
フォトジェニックの対極をいく灰色で無機質なイメージがありますがそんな気もします。
摩訶不思議な伝承も多く、私も一生に一度は訪れてみたいですね。


 『読者の声』

たいへん興味深い記事内容で、勉強させて頂けそうです。 これからも謹んで拝読します。
第1話~第14話まで一気に読んでしまいました…合掌。


ZIPANG-4 TOKIO 2020

2020年東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。この機会に、世界の人々にあまり知られていない日本の精神文化と国土の美しさについて再発見へのお手伝いができればと思います。 風土、四季折々の自然、衣食住文化の美、神社仏閣、祭礼、伝統芸能、風習、匠の技の美、世界遺産、日本遺産、国宝等サイトを通じて平和な国、不思議な国、ZIPANG 日本への関心がより深かまるならば、私が密かに望むところです。

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