いま世界的に新型コロナパンデミックの真っ只中ですが、日本ではこれに追討ちをかけるように、7月初旬には「令和2年集中豪雨」と命名された災害で熊本県や岐阜県において沢山の方々が犠牲者となられ、大きな被害を蒙ったばかりです。
この度は9年前の東日本大震災において未だ復興途上にある三陸地域のニュースをお届けするに当たり、改めて犠牲となられたすべての方々へ謹んで哀悼の意を捧げるものです。
合掌
編集局記
気仙船大工と気仙大工
気仙丸
気仙船大工衆の技術を結集した千石船を復元
気仙丸とは
「気仙丸(35t)」は、気仙船大工衆が技術の粋を集めて建造した千石船の復元船です。
平成3年(1991年)12月完成の「気仙丸」は全長18m、幅5.8m、船の高さ5m。帆柱は17m、木綿製の16反の帆は。畳85枚分に相当します。
気仙船匠会が製作を担当し、船尾の曲線美、船体の木組みや木彫など随所に伝統の技が光ります。完成から半年後、釜石市を主会場に開かれた「三陸・海の博覧会」に協賛出品し、「ジャパンエキスポ大賞」を受賞しました。
陸前髙田・気仙大工左官伝承館
気仙大工の技法を明治時代の建築で
陸前髙田・気仙大工左官伝承館とは
気仙大工左官伝承館は、気仙地方に伝わる大工左官の優れた建築技法を後世に伝えるために建設されました。気仙大工とは、気仙地方の大工の集団で、陸前高田市小友町が発祥の地といわれます。
気仙大工の足跡は江戸時代にまでさかのぼります。生活を支える目的で、農民が建設関係の仕事につき、独自の技能集団が形成されていきました。家大工だけでなく神社仏閣の宮大工や土地柄で船大工迄も手がけ、さらに建具や彫刻までもこなす多彩な技量を兼ね備えており、その技術力は全国的に高い評価を得ています。
気仙大工左官伝承館は、明治初期の気仙地方の民家を想定して建設されました。当時の建築様式にのっとり、材料は全て気仙杉など地元材を使用しています。母屋は木造平屋建茅葺で、大黒柱や丑もち梁には太い材料を使用しています。重厚な小屋組と広々とした間取りからは往時の人々の生活が偲ばれます。
気仙かべ
気仙の匠の腕をふるう左官職人の愛称
気仙かべとは
「気仙かべ」は左官職人の技術集団の愛称です。活躍の舞台は「気仙大工」と同じ宮城県北部の穀倉地帯で、「南行き」と呼ばれ明治期には出稼ぎをしていました。明治中期に建てられた一関市の花泉町の「唐獅子土蔵」は、日本の左官技術の粋を集めた土蔵建築の最高峰で、「気仙かべ」の傑作として有名です。
住田町立民俗資料館
多角的な展示をレトロな木造洋風建築で
住田町立民俗資料館とは
昭和60年(1985年)、旧上有住小学校の校舎を現在地に移築・修復し、資料館として再利用しています。産金、鉄山、気仙大工、農耕などまちを支えてきた産業や歴史、人々の暮らしの歩みを紹介しています。
旧上有住小学校の校舎は、気仙大工の高い技術によって昭和初期に建てられました。建物は、時間を巻き戻したかのような、懐かしい雰囲気とぬくもりにあふれる木造2階建て洋風建築です。
館内は、「産金資料」「佐藤霊峰」「考古・信仰」「郷土芸能」「養蚕・農耕」「産業」の展示コーナーに分かれています。また遺跡の展示も多く、ふるさと・住田町をさまざまな角度から知ることができます。
2020年の「日本建築学会作品選奨」
木造建築による大船渡消防署住田分署
気仙大工や気仙船大工の伝統の建築技法が活かされているに違いない!
技術的工夫など評価され、平成30年に完成した大船渡地区消防組合大船渡消防署住田分署が2020年の「日本建築学会作品選奨」に選出。
南東からの施設全景
配置計画
敷地西側に2階建ての庁舎をコンパクトにまとめ、東側に
大きく様々な使い方が可能な、駐車場兼訓練広場を確保し
ます。この配置計画は、再整備が進む中心市街地全体の広
場が連続していくことを意図したものです。広場を連続さ
せて、歩行者のための新しいネットワークを形成します。
構造形式
高い耐震性と耐震壁の無い間取りの自由度を実現する
ため、貫(ぬき)式木造ラーメン構造を採用しています。木材の粘り強い特性を最大限に生かした構造形式です。
柱梁の貫の接合部は、木の込栓と楔(くさび)を利用して
納めていきます。接合部に極力金物を用いずに建てる、伝統的な木造建築の技術を踏襲したつくりとなります。
車庫部は、同様の構造形式による貫式フィーレンディ
ールトラス(多段梁)とすることで、他と共通の部材を利用して、無理なく大スパンの空間を実現できます。
設備計画
①大きな庇の日射制御による建物寿命の向上
②自然換気・採光等の自然エネルギーの利用
③バイオマス熱源空調による木質エネルギーの導入
④太陽光パネル・発電機による補助電源の確保
⑤敷地内防火水槽の設置による補助給水の確保
⑥ピット採用による設備更新の簡易化
大船渡市住田町が整備し、平成30年に完成した大船渡地区消防組合大船渡消防署住田分署は、技術的工夫など評価され 、一般社団法人・日本建築学会が発行する作品選集の掲載作品のうち、学術・技術・芸術の総合的観点から特に優れた作品が選出される2020年の「日本建築学会作品選奨」に選出され、名実共に「まちの〝顔〟」となりました。
住田分署新庁舎の概要
施設概要
設計・施工
設計:SALHAUS
施工:佐武建設・住田住宅産業・山崎工業特定共同企業体
規模
敷地面積:4957.57m2
建築面積:732.82m2(14.78%)
延床面積:1029.74m2
構 造:木造 一部 鉄筋コンクリート組積造
敷地条件
地域地区:都市計画区域外, 22条地域
道路幅員:南9m
駐車台数:50台
設備
空 調:空調/木質バイオマス熱源機冷暖房, 電気式冷暖房
衛 生:給水/直結給水方式
給湯/ガス給湯器, 電気温水器
排水/合流式排水方式
電 気:受電/低圧受電方式
予備電源/太陽光, 非常用発電機
防 災:消火/スプリンクラー, 消火器
排煙/自然排煙
工程
設計期間:2016年9月~2017年3月
施工期間:2017年6月~2018年3月
工事費
総工費:486,556,200 円(税込)
その他
耐震安全性の分類 :重要度係数Ⅰ類(1.50)
木 構 造 部 数 量 :柱梁等:176.88m3 CLT:46.09m3
木 構 造 部 材 概 要:
柱/杉, 住田町産材, 町内加工(一部県外)
梁/カラマツ, 住田町産材(一部県外), 町内加工(一部県外)
CLT/杉, 国産材, 県外加工
住田分署新庁舎の構造
新庁舎では町産木材をふんだんに活用し、高い耐震性と耐震壁のない間取りの自由度を実現するため貫(ぬき)式木造ラーメン構造※を採用しています。
※貫式木造ラーメン構法とは
2本以上の垂直材(柱)を水平方向に貫通する貫(ぬき)を設け、軸組を補強する構法。
また柱と梁を長方形に組み、接合部を剛接合する構造をラーメン構造という。頑丈な木造建築に用いられる。
CLT(直交集成板)の使用
新素材として注目されるCLT※(Cross Laminated Timber, 直交集成板)を階段の踏み板や1階、2階天井・軒の出部分に使用しています。
※CLTとは
Cross Laminated Timberの略称で、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料です。
厚みのある大きな板であり、建築の構造材の他、土木用材、家具などにも使用されています。
CLTは1995年頃からオーストリアを中心として発展し、現在では、イギリスやスイス、イタリアなどヨーロッパ各国でも様々な建築物に利用されています。また、カナダやアメリカ、オーストラリアでもCLTを使った高層建築が建てられるなど、CLTの利用は近年になり各国で急速な伸びを見せています。
特に、木材特有の断熱性と壁式構造の特性をいかして戸建て住宅の他、中層建築物の共同住宅、高齢者福祉施設の居住部分、ホテルの客室などに用いられています。
日本では2013年12月に製造規格となるJAS(日本農林規格)が制定され、2016年4月にCLT関連の建築基準法告示が公布・施行されました。これらにより、CLTの一般利用がスタートしています。CLTは構造躯体として建物を支えると共に、断熱性や遮炎性、遮熱性、遮音性などの複合的な効果も期待できます。
木の表面をそのまま見せて用いると、木目や木の肌触りを感じる心地のいい空間ができます。また、厚盤、長尺、幅広の材が生産可能で、森林育成につながる木材需要拡大に大きな期待が託されています。
特に木材は持続可能な循環型資源であり、森林資源を有効活用した省CO2型の建物が建てられ、新しい木質素材として注目されています。
最後になりましたが、当初、この後に予定しておりました、
「気仙三十三観音巡り21番札所~33番札所」につきましては、
改めて次号のご案内といたします。
※画像並びに図表等は著作権の問題から、ダウンロード等は必ず許可を必要と致します。
鎹八咫烏 記
伊勢「斎宮」明和町観光大使
石川県 いしかわ観光特使
協力(順不同・敬称略)
気仙伝統文化活性化委員会
東海新報社
〒022-0002 岩手県大船渡市大船渡町鷹頭9−1 電話: 0192-27-1000
住田町役場
〒029-2396 岩手県気仙郡住田町世田米字川向88番地1 TEL 0192-46-2111
一般社団法人 東北観光推進機構
〒980-0811 仙台市青葉区一番町2-2-13 仙建ビル8階 TEL 022-721-1291
株式会社 林経新聞社 〒460-0005 名古屋市中区大井町6番26号 TEL: 052-212-5688
文化庁 〒100-8959 東京都千代田区霞が関3丁目2番2号 電話番号(代表)03(5253)4111
木造建築の伝統的工法関連情報は下記のリンク記事をご覧ください。
ZIPANG TOKIO 2020「現代の匠が挑む!!住友林業~街を森にかえる環境木化都市の実現へ~」
https://tokyo2020-summer.themedia.jp/posts/3680458
ZIPANG TOKIO 2020「飛騨の匠とは?飛騨の匠を迎えて『壁というデザイン』中部インテリアデザイン連絡会リレーセミナーのご案内」
https://tokyo2020-summer.themedia.jp/posts/2226908/
ZIPANG TOKIO 2020「ユネスコ無形文化遺産 提案候補『伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術』」
https://tokyo2020-summer.themedia.jp/posts/3693470/
ZIPANG-3 TOKIO 2020 ~ 日本の原風景 棚田巡礼 ~「世界一 富士山の眺望景観 西伊豆松崎町の石部棚田(2)」
https://tokyo2020-3.themedia.jp/posts/6735055/
ZIPANG-3 TOKIO 2020 明治の最高傑作 旧済生館本館(山形市)「明治の宮大工たちの魂は、昭和に引き継がれ、そして未来へと・・・」
https://tokyo2020-3.themedia.jp/posts/7213245
ZIPANG-3 TOKIO 2020 世界最大級の木材構造建築物完成「SWATCH のコンセプトとスイス伝統文化と日本人の匠の血が結実!」
https://tokyo2020-3.themedia.jp/posts/7113723
ZIPANG-2 TOKIO 2020~『日本遺産』井波彫刻とは~「木槌の音が響き、木々の薫りが漂うまち 井波(壱)」
https://tokyo2020-2.themedia.jp/posts/5076087
ZIPANG-4 TOKIO 2020 石川の魅力は、自然と文化の調和「石川県の重要文化的景観 【文化庁選定】」
https://tokyo2020-4.themedia.jp/posts/7294095
ZIPANG-3 TOKIO 2020 文化庁 重要文化的景観選定 「今帰仁村 今泊のフクギ屋敷林及集落景観(沖縄編)」~あなたは、もうご覧になられましたか~
https://tokyo2020-3.themedia.jp/posts/6523216/
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