ZIPANG-4 TOKIO 2020  全国の姥神像行脚(その16)新宿正受院の姥神像「綿のおばばと呼ばれ信仰」・・・【寄稿文】廣谷知行

はじめに 記事をお届けするに当たり、昨夏、関東・東北地域を直撃した、強烈な台風19号と、続く21号の記録的な豪雨で、千葉や栃木、福島など5県の34河川で浸水被害や土砂災害により亡くなられた方々を始め、多岐に亘って被災された皆様へ心よりお見舞い申し上げます。また、このたび我が国の世界遺産である沖縄のシンボル首里城の正殿等主要部分の全焼被害が発生。やりきれぬ国民的ショックも癒えぬ中、重ねて2019年12月4日、アフガニスタン東部で長年医療と共に当地に用水路を完成させた国民的英雄、中村哲医師の暗殺事件が続きました。余りにも大き過ぎる一連の悲報に暮れた昨今です。今私達は世界平和の為に何が出来るか…?中村氏が遺した後姿から一人ひとりが何かを学び取り、その実践こそが目指した真の世界樹に繋がるものと思います。謹んで哀悼の意を捧げつつ。合掌


 姥神(うばがみ)とは

姥神の定義の説明の前にまず、奪衣婆の説明をさせていただきたい。
奪衣婆とは、死後にあの世へ渡るための三途の川の岸辺にいて、亡者の衣を脱がせる存在である。なぜ脱がせるのかと言うと、その衣を衣領樹(えりょうじゅ)と呼ばれる木の枝にかけるためである。そうすると生前の罪の大きい者は枝が大きく下がり、小さい者はほとんど動かない。亡者の罪はその衣に重さとなって染み込んでいることになる。衣領樹は罪を量るはかりであり、それを審査するのが奪衣婆である。

正受院針供養の日の2月8日にしか拝観できない神輿に乗った頭に真綿を被っている小さな秘仏「姥神像」

針供養時の豆腐

針供養時の神輿

正受院のものと像容も似ている姥神像※のある新潟上越市高田の紫雲山 来迎寺


東京都新宿に、文禄3(1594)年に開山されたとされる浄土宗明了山正受院願光寺があり、ここに姥神像が安置されています。


この寺では毎年2月8日に針供養大法要が行われており、この日に姥神像も開帳されます。とは言っても、入り口にある大きい姥神像はガラス戸で安置されていますので、常に拝観することはできます。ただし、針供養の際、神輿に小さい姥神像をのせるのですが、この像は2月8日にしか拝観できません。

入り口の像は、平安時代に地獄と現世を行き来し、閻魔大王の裁判の補佐をしていたとされる小野篁の作とされ、また、元禄14(1701)年の墨書があることから、この頃から正受院に安置されていたとされます。


綿のおばばとして信仰

正受院の姥神像は、綿のおばばと呼ばれ、頭に真綿を被っています。ご利益は、咳、子育て、安産などです。真綿については咳止めの願掛けのお礼として奉納されていたものだと伝えられています。

昔、百日咳には首に真綿を巻くと治癒効果があるとされ、霊験のある真綿をお参りのとき分けてもらい、直ったら倍にして返すという風習がありました。

幕末の頃には大変な人気があったらしく、絵師の歌川国芳などが、錦絵の題材として、多くの人が願をかけてくるのにうんざりしている姥神(奪衣婆)を描いています。

また、武江年表の嘉永2(1849)年の項に、
「今年より四谷新宿後正受院安置の奪衣婆の像へ、諸願をかくる事行はれ、日毎に参詣群集し百度参等をなす。これに依りて売僧ども種々奇怪の妄説を云いふらし、香花を募ること甚だしかりければ程なく露顕し、官府の御所置に依りておのづから群集のこと衰へたり」 とあり、金儲けに走る僧が現われて役人に注意されるほど大変な人気があったことがわかります。


新潟上越市高田の来迎寺と関係

正受院の姥神が入っている箱には、昭和37年9月に、高田来迎寺から返還を受けたとの記述があるそうです。

来迎寺の姫神像※

来迎寺でのしゃもじの奉納。

新潟県上越市の高田に、同じく浄土宗の紫雲山来迎寺があり、こちらに祀られている姥神像は、正受院のものと像容も似ていますし、真綿も被っています。また、願掛けの際にしゃもじを奉納していたようです。

住職によると、こちらも咳止めにご利益があったらしく、戦前までは多数の信者がいたとのことです。昭和10年頃に正受院から譲ってもらったと聞いているそうです。

正受院と来迎寺の姥神像に関する詳しい経緯は不明となってしまいましたが、新潟では立山の影響が強いと考えられる姥神信仰が多く残されています。

さらに正受院の姥神像は木像であり、奪衣婆とされてはいますが、ご神体として祀り願掛けをしていたこと、普段は秘仏扱いしていることなどから、立山系の影響を受けている姥神信仰と言えるかと思います。

正受院の姥神像が描かれたお札 


参考文献 「増訂 武江年表2」、平凡社、一九六八年


続く・・・


寄稿文
廣谷知行(ひろたに ともゆき)
姥神信仰研究家



※画像並びに図表等は著作権の問題から、ダウンロード等は必ず許可を必要と致します。


読者からのご意見が届いておりますのでご紹介いたします。


『読者の声』

姥神像行脚シリーズ毎号楽しみ⁉実は(恐る恐る)拝読しております。
期待通り⁉来迎寺の姫神像怖そうな形相です。今晩、夢に出てきそうです・・・


『読者の声』

韓流ドラマの時代劇を見ると女は膝を立てて座っています。
姫神神も同じように膝を立て座っておられますが、なにか関連があるのでしょうか?
韓流ドラマの見過ぎでした・・・


『読者の声』

恐いもの見たさで、次はどこの姫神様か⁉楽しませていただいております。取材が大変だと思いますが、聞いたことの無い町の名前があり、日本は広いんですね~!


    


ZIPANG-4 TOKIO 2020

2020年東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。この機会に、世界の人々にあまり知られていない日本の精神文化と国土の美しさについて再発見へのお手伝いができればと思います。 風土、四季折々の自然、衣食住文化の美、神社仏閣、祭礼、伝統芸能、風習、匠の技の美、世界遺産、日本遺産、国宝等サイトを通じて平和な国、不思議な国、ZIPANG 日本への関心がより深かまるならば、私が密かに望むところです。

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