姥神(うばがみ)とは
姥神の定義の説明の前にまず、奪衣婆の説明をさせていただきたい。
本号の主役。三島市林光庵の姥神像「オキャーキバアサン」
奪衣婆とは、死後にあの世へ渡るための三途の川の岸辺にいて、亡者の衣を脱がせる存在である。なぜ脱がせるのかと言うと、その衣を衣領樹(えりょうじゅ)と呼ばれる木の枝にかけるためである。そうすると生前の罪の大きい者は枝が大きく下がり、小さい者はほとんど動かない。亡者の罪はその衣に重さとなって染み込んでいることになる。衣領樹は罪を量るはかりであり、それを審査するのが奪衣婆である。
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ー新型コロナ菌肺炎のパンデミックに寄せてー
昨年、我国は皇室の御代替わりで年号も改まり、昨秋の奥ゆかしき即位式には深い歴史の重みに国民は改めて誇りをもち、2020オリンピック主催国日本は明るい兆しを求めて令和2年を迎えたばかりでした。その余韻も覚めやらぬ1月半ば、世相はいきなり急転直下…
目下、全世界が新型コロナ肺炎パンデミックに巻き込まれております。未だ対処方法も終息期も見出だせない状況下、各国で拡散し猛威を奮っております。
今、私達に出来ることはただ一つ。それはこの目に見えない新型コロナ菌に出逢わない事だそうです。その方法とは… "三密 " つまり密集、密閉、密接 を避ける事ですね。
当面は一人一人がその "三密 " を守りましょう。皆が心を合わせれば、コロナ菌は行き場を見失うのです。
どうか、世界各国が足並みを揃え、協力しあって一日も早く平和な日々が訪れますように。
編集局より
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静岡県三島市 林光庵の姥神
静岡県三島市「林光庵」
咳に霊験
前回、東京での咳の姥神信仰をご紹介しました。この風邪や百日咳など咳の病気に霊験のある姥神というは、大変な人気だったらしく、全国にも様々な形で咳に霊験のある姥神、姥石などが多数見られます。その中で、現代も姥神の像を祀っている静岡県の例を今回ご紹介します。
静岡県三島市の林光庵
三島市林光庵に祀られているオキャーキバアサン
うなぎや三島大社で有名な静岡県三島市の川原ヶ谷に地域の方々が管理する林光庵というお堂があり、ここに姥神像が祀られています。この像はオキャーキバアサンと呼ばれ、特に風邪に霊験があるとされています。(風除神のお札は最後に掲載してあります。ご参照ください。)
寛政(1789~1801)のころ編纂されたと考えられる、『増訂豆州志稿』の巻之十、附録菴室堂坊、君澤郡の稿に林光庵についての記述があり、「川原ヶ谷村下同 庚申堂ナリ往昔村東蛇尾山ニテ堀出シタル木像ヲ安ス面貌甚奇ナリ呼テ風除神ト云」
とあり、山で掘り出した木像を、風邪の神として祀っていたことがわかります。
現在も地域の女性の方が2人ずつ順番に、毎月14日に堂でご詠歌などを奉納しているそうです。庚申堂としての役割もあったため、念仏や真言が額に飾られていますが、その中に風除神へのご詠歌が残されています。
「有難がたや うきゃきじんのおがささん 流行の風邪を のがしたまえよ」
「オキャーキ」が「うきゃきじん」となっていますが、おそらくオキャーキ神だと思われます。
ここも、東京に続いて、現在の新型コロナウイルスに霊験があるかもしれないパワースポットと言えますね。
静岡県のギャーキバアサンとは
沼津市中沢田道尾の咳気神社
沼津市中沢田道尾咳気神社の入り口に掲げられている咳気神の文字
さて、三島市の隣、沼津市中沢田の道尾に咳気神社と呼ばれる神社があり、中にはガキバアサン、ガイキバアサンと呼ばれる、風邪に霊験のある石像が祀られているそうです。
大島健彦氏の西郊民俗によると、沼津市中沢田西ノ久保にも咳気神社があり、また、同市三芳町の連光寺、裾野市富沢の公民館にも咳に霊験のあるガイキバアサンが。他に、清水町のケヤキノオバアサンも風邪の神様として祀られているとのことです。
静岡県東部では、三島市が中心かどうかは一概には言えませんが、その近隣でギャーキバアサンが厚く信仰されていたことがうかがえます。
さて、説明が遅くなりましたが、静岡では、風邪に霊験のある姥神様をギャーキバアサン、ガイキバアサンなどど呼んでいます。「ギャーキ」とは、「咳気」の意味のことで、咳や風邪のことを表しており、バアサンはもちろん婆さんと考えられ、東京で言う咳の姥神と同類ということになります。
三島市林光庵の風除けお札
先の『増訂豆州志稿』の製作が寛政のものなので、この頃にはもう風邪の神として信仰されていたと考えられ、江戸で咳の姥神が大流行するよりも早い時期となることから、咳についての信仰に限れば、こちらが先ということもあるかもしれません。
参考文献
「増訂豆州志稿伊豆七島志」、萩原正平他、長倉書店、一九六七年
「西郊民俗」第百四十三号、第百七十五号、西郊民俗談話会
続く・・・
寄稿文
廣谷知行(ひろたに ともゆき)
姥神信仰研究家
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