はじめに 記事をお届けするに当たり、昨夏、関東・東北地域を直撃した、強烈な台風19号と、続く21号の記録的な豪雨で、千葉や栃木、福島など5県の34河川で浸水被害や土砂災害により亡くなられた方々を始め、多岐に亘って被災された皆様へ心よりお見舞い申し上げます。また、このたび我が国の世界遺産である沖縄のシンボル首里城の正殿等主要部分の全焼被害が発生。やりきれぬ国民的ショックも癒えぬ中、重ねて2019年12月4日、アフガニスタン東部で長年医療と共に当地に用水路を完成させた国民的英雄、中村哲医師の暗殺事件が続きました。余りにも大き過ぎる一連の悲報に暮れた昨今です。今私達は世界平和の為に何が出来るか…?中村氏が遺した後姿から一人ひとりが何かを学び取り、その実践こそが目指した真の世界樹に繋がるものと思います。謹んで哀悼の意を捧げつつ。合掌
ツバルの首都のあるフナフティ島 筆者による空撮 真青な海と珊瑚礁
世界で最初に海に沈む国ツバル
フナフティ島 切手局環境ポスター
ツバルの切手はうつくしい
ツバルの首都フナフティー全図
「汎社会的デザイン」とは
筆者の提示する「汎社会的デザイン」とは、広く物事の全体を見渡し取りかかる慈しみと利他のデザインである。
利他は人間だけでは無く、生きとし生きるもの全ては言うに及ばず、山川草木天空海大地にも「痛み」を与えないことである。
人間界の倫理もさることながら、自然界のあらゆるものにも「尊厳」があると思うことが大切である。
さらに国や地域は地上の緯度経度のなせる太陽の光や吹く風の特徴がある。
それが環境・景観であり、住んでいる人々の歴史や伝統の拠って立つ全てであり、地上に一箇所にしか無いかけ替えのない存在である。
ここに未来都市のあるべき姿の出発点がある
ツバルの子供達の屈託のない表情に癒されて・・・
未来都市の見習うべき大きな課題
米軍が飛行場をつくる土砂を取った後が家畜小屋とゴミ捨て場に、ゴミの増加氾濫は太平洋戦争後の経済発展での世界共通の負の遺産。終戦直後まで日本には何一つ棄てるものの無いエコの国であった、未来都市の見習うべき大きな課題である。
この平和そうな国も太平洋戦争では大日本帝国とその後は米軍の基地であった。その傷跡は痛ましく残り、市民のゴミ分別収集努力も施設が無く処理出来ず、そこは無残な廃棄物捨て場になっていた。また海岸に打ち寄せる外国のゴミも世界共通であるが・・・
屈託のない明るい子供達とカラフルな暮らしの色彩に少々安堵した。
台湾が寄付したツバルの庁舎が突き当りに見える 豊かな緑と遊ぶ子供たちと
日本の対外援助にも美学を
ツバルの仄暗い小さな食堂で、ここで歴史を教えている若いフィンランド人が近寄ってきた。
「日本が今ここに造っている施設はツバルには合わない。台湾の建てた庁舎はここツバルに合っているのにどう思うか」と来た。
日本人の無神経さへの抗議であった。
ここへ到着した時、空港の消防車には漢字の東京の役所の名前、給水車も日本のガソリン会社のそのままが走っていた。そして既に使われていた海水真水化の施設は無神経なバラック工場で滑走路の側にあった。
わが国の日本国内の都市景観はスラムと言われるほどであるから、まして外の国の景観など気にしないのである。江戸期までのわが国の美意識を取り戻し未来都市に取り組もう。
工事中のプロセスも住民には大事な景観である。40年前にパリの副都心ラ・デファンスの工事中の現場見学で学んだ。 日本の風景は資材置き場だと言われる。
フナフティー空港のフィンランド青年教師の指摘を受けるまでもなく、日本のブルーシートは災害時でも一考の余地のある景観阻害要素である。
「AIとデザインの行方」
「AIが出来ないことを 人がやる」というのは幻想である。
「人間がやるべきことを AIにはやらせないこと」を倫理とする歯止めが必要だが、人間の欲望はあらゆる物事をAIで代替することを止めず、やがてAIの僕(しもべ)になるだろう。
今話題の自動運転志向もさることながら、程なくAIで出来ないことは無くなり、人間のできることの方が稀有になる。創造性も企画も文学もデザインも音楽も農業も司法の判断も、医療も人間関係も、五感も、人の判断する必要は無くなり、人々の正常バイアスは果てしなく、無力感が漂うでしょう。
ここで本当に正しい物事のあり方も機能性と同時にAIで問わないと、本来人間が欲している幸せや平和で公正な社会も国も世界も訪れないだろう。
せめて幸せの一つであり、貧富の差も無く、誰にも平等に接する環境や景観を心の拠り所になるよう取り組むことは、わが国に最も欠けていることの一つである。
それも根無し草文化では無く、主に日本人が美しく見える、世界に誇れる伝統を活かすことが第一である。
未来の都市計画は和の伝統とモダンデザインの融合である。その心を粋な棟梁建築家の才能に学ぼう。
我が国の混沌とした景観の整理整頓と、この日本の色彩環境の基本だけでも、
美しい日本の国土と未来都市環境は実現するでしょう。
日本文化の集大成者 足利義政の東山文化「銀閣寺」
室町時代に完成した日本文化は 自然と人工の調和の究極の世界一の美意識の集大成だ
京の都の鹿苑寺はその拠点でありトータルデザインの手本である。
参考事例
長野・松本の事例
白黒グレーとコーポレートカラーの扱いが、道路環境の色彩と背景の山並みとも見事に調和した国道19号線沿線1のモダン和景観事例である。
長野・安曇野の事例
未来都市の目指す自然と古代の和と洋の要素が調和した自然素材色の魅力的な事例である
和の伝統の白黒グレー 自然素材色と黄金色の明快な構成
アクセスの陽と灯の効果 石材とセメントと木材の構成美
オープンスペースのシンプルな円形の絶妙な造形空間構成
和の素材と色彩の魅力的な 内部空間のディスプレ−
続く・・・
【寄稿文】 林 英光
環境ディレクター
愛知県立芸術大学名誉教授
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読者からのご意見が届いておりますのでご紹介いたします!
『読者の声』
自然界のあらゆるものにも尊厳があると思うことが 大切と仰る林先生がいろいろなことを見て感じていることを読ませていただきとても勉強になりました。
『読者の声』
以前、ツバルのことをNHKテレビのドキュメンタリー番組で、島内が水浸した状況を拝見して、ふと島の多い日本国もいつか同じようにならないのか?心配しておりました。
ここのところのコロナウィルス騒ぎに世界中が右往左往し、地震や環境問題を忘れてしまったかのように感じております。環境問題に携わられている方々が(環境大臣を筆頭に・・・)世界に先駆けて率先して我が国の未来への取り組みを発信していただきたいものであります。(委員会の国会中継を見ている限りでは、殆ど危機感が感じられない…)
『読者の声』
「デザイン」には「整える」という意味を含んでいることをご教授いただきました。 本来持っている美意識をお手本にして、日本の未来の景観が整うことを願います。
『読者の声』
「林先生のおしゃることを拝聴するたびに、私のいつも流されがちな思考に正しいブレーキをかけていただいています。世界はたいへんなスピードで進んでいます、大事な事を置き去りにします。先生の言われるとおり、あらためて自然を絶えず真摯なまなざしで見つめ直したいと感じました。」
『読者の声』
これまで旅をしていても余り気にも留めていなかった民芸品のお店のディスプレイですが、こうやって改めて拝見すると小さな物にも色が感じられ、また他のものと調和した空間がつくられていることがよく分かりました…ただボーと眺めるのではなく、これから街を歩くときは一つ一つ丁寧にみて、更には全体のことも考えてみたいと思います・・・と言ったものの出来るかな~
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